百年後も日本の羊が続くには…

手紡ぎの風景117 本出ますみ
百年先も 日本の羊が続くには…

■「このところ羊飼いが増えているんです…」
茶路めん羊牧場の武藤さんが怪訝な声で言いました。「なんでかわからん…?」
彼自身800頭の生産牧場を30数年経営、その経験からもなぜ近年羊飼いも羊の頭数も増えているのかわからないという。その後いろんな人とこの話題をするうち「世の中の価値観が変わって、学歴も大企業もあてにならないから、いっそ好きなこと…そうだ!念願の羊飼いになろう…という人が増えたのか?」とか、「ソーラパネルの草刈り隊が増えた?」とか…。結局「羊飼いがカッコいいからじゃない?」という意見に皆が大きくうなずきました。しかしまだ 私には“なぜ?”という疑問が残りました。

■令和6年6月の農林水産省畜産局畜産振興課の資料 r6_mensanyo-9.pdf を見ると、たしかに羊は増えています。その頭数は2008年の9,635頭を底に、徐々に頭数を増やし2023年には24,631頭と2.5倍、飼養戸数も716戸から999戸に増え、そのうち58%が北海道、次いで岩手、栃木、長野、山形と続きます。登録品種はまずサフォークとテクセル(えっ!ポールドーセットは?)。羊肉は主に豪州とニュージーランドからの輸入が97%を占め、国産は0.5%。これは羊毛も状況は同じ、いえ羊毛0.1%もないでしょう(国産羊毛が流通してるデータがありません)。これが現状です。

■なぜ増えているのかあまりに不思議なので、日本めん羊研究会会長、めん羊飼育全般のアドバイザーの河野博英先生に聞いてみました。

本(本出):日本の羊の今一番の問題は何ですか?
河(河野):もちろん種(たね)雄(おす)問題。ニュージーランドからしか種を補充できない現状ですが、日本の主な品種であるサフォークは、NZで頭数が減っているので今後供給は期待できない。ということは日本国内で血統管理をすることを考えなくてはいけないことです。しかし現状のオスの血統登録及び管理しないまま、交雑するに任せていては、日本の羊は自滅します。

本:自滅ってどういうことですか?
河:血統がわからないってことは、近親交配していくってことです。
本:近親交配するとどうなるんですか?
河:遺伝病が出てきます。サフォークだと足が長い子羊が生まれて立てなかったり、感染症や病気に弱かったり、死亡率が増えて生産性が落ちます。
本:血統ってどうやって管理するのですか?
河:まずオスの血統を登録することです。でも現在ちゃんと登録する牧場が少ないのですよね。黙って安価でオスのやりとりするから血統がめちゃくちゃになってわけのわからん交雑ばかり増える。
本:優秀な種オスってどうやって見分けるのですか?
河: もちろん体型とか血統、能力とかです。 でもそういう優秀な種オスを審査できる人も少ないし、能力を評価するシステムも整備されていないのが現状です。
本:ええ!それって、がんばっている羊飼いを褒めてあげる人がいないってことですか?
河:そういうことです。褒めるだけじゃない、種オスを評価して正当な価格で売買することも大切です。正しくジャッジして高くオスを買う正式のルートを作る。そういう意識が育たないと日本の羊は自滅します。
本:血統管理って家畜を維持する骨格みたいなものなのですね。血統のわからない種オスを安価でやり取りすることを放置していると、骨のないグニャグニャ状態になる。せっかく今やる気のある羊飼いが増えていたとしても、それはバブルみたいなもの、種オスのシステムをつくらないことには継続できないということですね。

羊飼いが増えたと喜んでいる場合じゃない。これって今の日本じゃないですか。高齢化の後には空き家が爆増するのがわかっていて、今マンション価格が高騰しているみたいもの。今やるべきことは骨組み(インフラ)しっかりしとかんとあかんやろー!
…とおもわず声をあげてしまった私でした。

■羊と羊毛を愛する人は、プロもアマも羊飼いもスピナーも職人も学者も…関係なく、上下ではなく横に繋がり交流し、そして協力すること。めざすは日本の羊の自立!

それには大急ぎで骨組み(種オスの血統管理)とインフラ(人の交流と協力)を整えなくてはいけません。これが日本の羊が百年続く、私が考えた結論です。

 参考資料:※下記をクリックするとPDFデータが開きます
『めん羊の将来のために今やるべきこと』河野博英 ジープジャパンNo.107/2020年より

 

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